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令和6年度 座談会



都をはじめとする行政の支援の在り方について


田中(たなか)

最後に、支援の在り方についてのお考えをお聞きしたいと思います。



あおい

「サービスは受動的に 当事者一人ひとりが向き合える環境に」
私はこの種のサービスについて、当事者一人ひとりが能動的に取りに行くのではなく、受動的に向き合える環境になればと思っています。現状は、家族のケアもある中で、介護やケアについての情報を追いかける必要があります。どういうサービスがあるのかがわからず、助けを求めるためのハードルも高く、当事者としては負担です。介護支援を受けるにも、役所に何回も行ってたくさん資料を書いて、申請も必ず通るわけではないので時間をかける必要があり、かなり負担です。行政側から「これができますよ」などの提案がほしいです
例えば、障害年金[1]の制度について知っているか知らないかで恩恵が大きく違うと思っていて、障害者手帳を持つことで現状の負担が少し軽くなったこともあるので、支援やサポートを受けるためにどういうサービスがあるのかという情報が、当事者一人ひとりにしっかりと行き渡っていることが求められていると思います
[1]病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金




ハリー杉山(すぎやま)

あおいさんの実体験から「情報は受動的に得られるように」という言葉が出てきたんですね。
自分から進んで「これはできますか」「あれはできますか」と聞けるバイタリティがある人はできるかもしれないけれど、それは本来の社会のあるべき姿ではないですよね。



あおい

1年前に今の住所に引っ越しましたが、以前住んでいた市とは対応が異なり、驚いたのを覚えています。不満を言っているわけではありませんが、役所によって対応の差が生まれるのは悲しいです。取組が進んでいる区や市があるので、そうした区市町村の対応が他にも広がっていってほしいと思います


座談会の様子


ひか

「もっと私を見て!」
"家族の介護力の一員"としてではなく、"私本人"を見る視点を持っていただきたいと強く感じています。支援が必要な人物のフィルターを通してでしか、見られていないように感じます
代替サービスの提供など、目に見えて分かる支援はもちろん大切です。しかし、それ以前に、この視点が抜け落ちてしまっていると、行政や支援者に対してどこか距離を感じてしまい、大人に対する信頼を持てなくなってしまいます。代替サービスを提供すれば全てが解決できるわけではありません。抽象的になってしまい、申し訳ないのですが、ケアが必要な父・母の息子・娘ではなく、祖父・祖母の孫ではなく、ケアラー本人ときちんと向き合った支援が必要だと感じています。



しゅんた

心理的支援についての情報提供や、ケアラーだけでなく介護を受けている家族について焦点を当てていただけたらと思います
「こういう制度がある」と知らせるのは大事だと思いますが、その制度を知っていても、それを受けようと本人が思わなかったら利用できません。「自分は支援を受けるほど弱っていない」、「自分は病気ではない、認めたくない」という方やご家族も多いですし、そんな感情で凝り固まっていて自分から助けを求められないでいるのはまずいと思うので、心の支えを増やすような、心に焦点を当てた支援に力を入れてほしいと思います。訪問で心理師を派遣することなどもできると良いのではないかと思います。



田中(たなか)

そうですよね。ケアされる方の意見や心のありようとか、どんな気持ちなのかを丁寧に理解した上で、サービスや制度を考えるべきだという提案も必要ですよね。
では「一輝」さん、お願いします。


座談会の様子
一輝


「個人の特性に合わせた支援が必要」
自分はASD(自閉症スペクトラム)で日常に支障のない程度だと診断されています。それでも、声を挙げられる環境にあってもトラウマがあったりすると声を挙げられないこともあるので、誰もが声を挙げやすい社会も必要ですが、一人ひとりの特性に応じて利用できる支援や制度の充実が必要だと思います。



田中(たなか)

ケアする人だから「ケアラー」で一括りにするのではなく、一人ひとりの事情に合わせていろんな話をしてもらったり、支援提案が欲しいということですね。



ハリー杉山(すぎやま)

相談を受ける人の守備範囲がどれだけあるかが重要ですよね。この人に対してはこういうサービスが必要だと把握できる人が必要だと思います。相談窓口には、相談に答えられる専門性を持った人材を配置してほしいですね。



田中(たなか)

それぞれの分野に対応できる人材の配置もそうですし、自治体が相談を受けるときにワンストップで対応可能な窓口があると良いですね。
私が担当している「ヤングケアラーコーディネーター」は、ケアラーの方から連絡をいただき、その内容をしっかりと受け止めて、ケアが必要な方、ケアを担当する方など様々な方の意見を聞いたうえで、状況をトータルに考えて必要な支援を提案する役割を担っています。一律のサービスではなく、事情は一人ひとり違うということを踏まえた上で最適な提案をする必要がありますね。
では、「ののか」さん、お願いします。


座談会の様子


ののか

「困っている人を見捨てない世界にしたい」
母も私も寝込んでしまったときには、家事などの面で助けがほしいと切実に感じます。ですから、介護やサポートの制度がもっと充実すればいいなと感じます。ヤングケアラーには小さな子供も多いので、そういう子供たちでも無料で使える家政婦さんのような存在がいればいいと思います
また、先ほど「世帯分離している」と話しましたが、学生だからという理由で自動的に世帯分離させられてしまうのは見直してほしい点ですね。



田中(たなか)

「家事援助ヘルパー[2]」のような制度があればいいということですね。
[2]自宅で受けることのできる訪問介護としてのサービスで、利用者が可能な限り自宅で自立した日常生活を送ることができるよう、訪問介護員(ホームヘルパー)が利用者の自宅を訪問し、食事・排泄・入浴などの介護(身体介護)や、掃除・洗濯・買い物・調理などの生活を支援



ののか

実はヘルパーについては一度行政に相談して、母にも相談しましたが、「知らない人が家に入るのが嫌」と断られました



田中(たなか)

今はヤングケアラー向けの施策の中で、自治体独自で、ヤングケアラー世帯に無料でヘルパーを派遣しているところもあります。
ただし、サービスの提供はあっても受け入れる側の問題があって、子供がサービスを利用したくて提案しても、患者本人が反対する場合、利用が難しいことがあります。人によっては中学生、高校生であっても必然的に強制的に自分の家族の舵取りをしなきゃいけなくなるケースがあるのですが、制度を申請する決定権を持つには、成年に達している必要があります。ここがヤングケアラーの方々が悩む所だと思います。しゅんたさんが言うような、患者本人への心理的な支えがあるとよいのかもしれませんね。



ののか

あとは、私の場合、ケースワーカー[3]さん、生活保護課の担当の方とあまり関われていない状況です。面談に来てくれた時に私が対応できず、電話を折り返したのですが、結局そのままになってしまいました。話す機会がないということもあるのですが、もう少し気にかけてもらえたらと思っています。
[3]公的機関に勤務し、身体的・精神的・社会的理由などにより、日常生活を送るのが難しい人の相談を受け、支援を行う職員


メッセージ「困っている人を見捨てない世界にしたい」


田中(たなか)

ヤングケアラーの人たちが話をしたいとか、困っている気持ちとか悩んだりしたとき、話すチャンスが一番あるのはケースワーカーさんです。ケースワーカーさんも例えば100人以上の担当を持ちながら、順番に家庭訪問をしたり、生活保護費を調整する役割なのですが、相談者側がアクションを起こさなくても、特に子供がいる世帯はケースワーカーさん側から訪問に来るというのが大事だと思います。



ハリー杉山(すぎやま)

僕はケアマネジャーさんに話すことができましたし、ケアマネジャーさんからたくさん質問も受けたのですが、自分がもしヤングケアラーだった場合、誰と話すべきなのでしょうか?



田中(たなか)

もし中学生や高校生なら担任の先生、あるいは保健室の先生などの身近な大人にまず相談すると良いと思います。
また、私が担当した例では、病院で若年性認知症と診断されたお父さんのケースがあります。お父さんの病気を息子さんに告知するとき、病院から情報を得たソーシャルワーカーが子供たちとコミュニケーションをとり、そこで様々な制度や支援が提案されることがありました。



ハリー杉山(すぎやま)

こういうことをもっとみんなが知るべきですよね。支援につながる道が、当事者の年齢によって異なるとか、誰に話せばいいのかということは、皆さん最初に思うことじゃないですか。「誰に助けてって言えばいいのか」がわかっていると、必要な情報を手繰り寄せるのがスムーズになると思います。



田中(たなか)

皆さんの社会へのメッセージや支援の在り方に関して、すごく重要で切実な内容でした。







座談会を終えて


田中(たなか)

最後に、ハリー杉山さんに本日の感想をお聞きしたいと思います。



ハリー杉山(すぎやま)

まずはファシリテーターとして皆さんから様々な話を引き出してくださった田中先生、本当にありがとうございます。
僕はみんなの言葉でここまで心を動かされるとは、正直思っていませんでした。一人ひとりの言葉にものすごく力があります。今日は来てくれて本当にありがとうございます。皆さんの言葉の力をたくさんの人に聞いてほしいと思います。今日の話を聞けば、ヤングケアラーをかわいそうだなんて誰も思わないと思います。
一人ひとりの言葉の中に、中学生の時、高校生の時、20代、30代のとき、介護やケアで困ったらこう対応すればよかったのかというヒントが、たくさん散りばめられていました。だから、またこういう座談会をやりたいですね。今日参加してもらった皆さんの言葉には、人に行動させる力があるから、まさに子供、未来アクションだけどアクションを起こさせる力がある人たちだと思いました。
自分がいろいろな番組や講演会で「みんな助けてって言っていいんだよ」と話しているけれど、僕より20歳くらい若いみんなが、僕より一歩も二歩も進んだ内容の発言をしている。今日の座談会で、みんなと一緒に新しい世界の扉が見えました。僕は父を介護して、認知症もパーキンソン病も両方見ているので、僕が力になれるのであればいくらでも協力したいと思います。
苦しい体験を話すのは、相当ハードルが高かったと思います。それをOKし、この場で話してくれたことに、ありがとう以上の言葉が見つかりません。本当にありがとうございました。


座談会の様子