田中
みなさんのヤングケアラーの方に伝えたいメッセージを踏まえて、具体的に支援のあり方やその方法について、求めることや思いはありますか?
高岡
むっちさんも話していましたが、“ヤングケアラー”という知識がないと、ただ怠けていると決めつけられてしまうことが多いんです。学校で、宿題ができていなかったり、疲れて居眠りしてしまったりすると、“ダメな生徒”と見られる。そういう理不尽な決めつけは、こどもの心をどんどんふさいでしまうと思います。だからまずは、大人が「この子にはヤングケアラーという背景があるかもしれない」という視点をもった上で関わってほしいですね。
それから、話を聞いてもらえること自体はありがたいのですが、「お父さんは何をしているの?」「他の家族に押し付けられたのでは?」と、家族の誰かを悪者にするような言い方をされると、とても苦しくなります。家庭の関係性は長い時間をかけて築かれてきたもので、状況を変えられていない自分をかえって責めてしまいます。だからこそ、解決策を提示する前に、まずは最後まで話を聞き切ってもらいたいと思います。
さらに、社会人になってからケアに専念する生活が続くと健康診断を受ける機会がなかったり、メンタル不調を感じてカウンセリングを受けたくても費用の負担が大きく、自身のケアまで手が回らないことも重要な課題ですね。
また、ケアのために現実的に就労が難しい場合、履歴書に残る“空白”も問題です。本当は家族を支えていた大切な時間なのに、社会からは“何もしていなかった”と見なされてしまう。ケアを担った経験をきちんと価値として認める仕組みが必要ですし、“ただの空白”ではなく“ケアラーとして過ごし、ケアという形で社会にかかわっていた時間”だと社会全体が理解してくれるようになることを願っています。
ぽむぽむ
確かにそうですね。その空白期間が反対にアドバンテージになるような、これだけヤングケアラーとしてその家族を支えることができていたことについて、付加価値のつく名前なのか資格みたいなものなのか、分かりやすいものがあるといいなって思いました。
ナミレオ
スクールソーシャルワーカー[16]の存在って、本当に大きいと思うんです。
学校の先生はケアに関する専門知識や経験を持っているわけではありません。だからこそ、そうした知識を持つ人が学校にいることは必要だと思うんです。ちょっとした変化に気付いてくれる大人の存在って、とても大事だと思うんですよね。
先生は一人で30人以上の生徒を見ているわけですから、どうしても細かい変化に気付くのは難しい。だからこそ、そういう部分を見てくれるスクールソーシャルワーカーの存在はすごく重要だと感じています。
[16]いじめ、不登校、暴力行為、児童虐待など、子供が抱える様々な課題を解決に導くため、教育と福祉を繋いで援助する職員
田中
最近では、中学校の学区ごとにスクールソーシャルワーカーを1人ずつ配置していこう、という方針を取る自治体も増えてきています。中学校1校に対して、2〜3校の小学校を含めた圏域を担当する形で、その地域を回りながら支援にあたるイメージです。
ただ、自治体によってはこどもや家庭の側から手を挙げない限り、スクールソーシャルワーカーに会えないという仕組みになっているところもあります。そうなると、そもそも「困っている」と声をあげにくいこどもたちが支援にたどり着けないという課題も残っているようです。
むっち
自分は仕事でこどもの支援に関わっています。やりがいは大きく、こどもたちが日頃気になっていることを聞いたり、本当に困っていることがあれば自治体などに連絡して仲介したり、保護者にこどもの意見を伝えたりしています。
仕事自体はやりがいもあり成長も感じられて楽しいのですが、福祉関係の仕事は給料面で厳しい現状があります。こどもたちの話を親身に聞き、支える大切な仕事であるにも関わらず、待遇面が改善されないために辞めてしまう人も多いです。
おかりな
私が考えるヤングケアラー支援の課題は、大きく3つあります。
1つ目は、学校や大学に社会福祉士[17]やキャンパスソーシャルワーカー[18]があまりいないということです。小中高はもちろん、大学にもこうした専門職がいることで、こどもたちの支援につながるきっかけを作れると思います。
2つ目は、夜の逃げ場がないことです。私自身、ケアの最中、家庭内でのけんかなどで家に居づらい夜があり、どこにも行けず一人でコインランドリーで過ごすこともありました。日中の居場所は多くても、夜に安心して行ける場所は限られていると思います。
3つ目は、ケアの経験を成長の段階で表出できる場の必要性です。ケアをしていたときは「助けて」と言えなかったけれど、大人になり経験を話せる機会があると、ライフステージが進み自分の人生に関わる課題に出会ったときにも向き合いやすくなると思います。心の傷を整理し、言葉にする場があることは、心の安定にとても重要だと感じます。
[17]身体や精神上の障害あるいは環境上の理由などにより、日常生活を営むのに支障がある人や社会生活上の困難を抱えている人に対し、福祉に関する相談や助言、指導、その他援助を行う専門職[18]大学や専門学校等の学内で生活に困難を抱える学生に対して相談に応じ、必要な支援につなげる専門職
ゆい
ヤングケアラーのサポート活動をしていると「法令的な根拠、予算がないと実現できない」と言われることが多く、私が関われる範囲は限られているなと感じることが多くあります。
その中でも、学校でケアについて教えることはとても大事だと思っています。
学校でケアの話をすることを嫌がる子もいるかもしれませんが、ケアは特別なことではなく、誰にでも関わる可能性があることです。できれば、行政の方やこどもたちが関わる専門家が学校に来て、「こういう支援がある」「こんなことをしてくれる」と教えてくれると、より安心できるのではないでしょうか。
ぽむぽむ
学校や行政、子供食堂[19]や居場所づくりなど、個々にこどもへの支援を行っている場所は多くあります。ですが、それぞれの活動内容や、現場で困っていることを共有できるネットワークがあれば、もっと支援がつながりやすくなると思います。
おかりなさんの話にもありましたが、夜に「家にいたくない」「SOSを出したい」と思うこどもは多いと思います。そういうこどもが安心して過ごせる場所があれば、ボランティアやこどもが集まり、家族や支援ネットワークについて話したり、意見交換したりすることもできると思います。理想は、月に1回ではなく、毎日開かれる場所です。時間に余裕のある高齢の方や社会貢献したい方も、こどもたちに教える場として参加するなど、多世代が関わるネットワークを作ることで、つながる仕組みができるのではないかと考えています。
[19]地域の子供や保護者が気軽に立寄り、栄養バランスの取れた食事をとりながら、相互に交流する場を民間団体等が提供する取組
田中
みなさん、ありがとうございます。とても具体的なお話を聞くことができました。